北海道
北海道の経済環境と雇用状況について
唯一の「道」 ~歴史的、地理的な特異性~
北海道の総人口は544万人(2013年12月)で、2010年の国勢調査では、全国の都道府県で8位、全国の人口の4.3%を占めています。経済規模では、都道府県別のGDP(国内総生産)で19.9兆円と国内シェアは3.9%。 面積は8.3万㎡と九州の2倍近い大きさであり、日本の国土の2割を占めるため、同じ北海道内でも札幌圏を中心とした都市部と過疎地、降雪や温度等の気象条件の違いなど、状況の異なる様々な地域が混在しています。産業別構成比から見えてくる課題 ~低い製造業割合、高い建設業割合~
産業別構成比を全国と比較すると、まず目に付くのは製造業比率が低いということです。全産業における製造業の就業者比率では、北海道が9.0%なのに対し、全国は16.1%。また、2009年の産業別GDPでは、全国が20.1%なのに対し、北海道はたった8.2%になっていいます。 製造業が育ちにくい原因としては、四方を海に囲まれ、かつ首都圏からも距離のある環境から、他都府県との経済交流にも運送費問題も含めた物理的、精神的な壁が存在することが一つ。加えて、古くから育っている地場工芸的な産業が少ないことが、製造業が根付きづらい一因とも考えられます。 一方で、全国に比べて就業者の比率が高い産業には、農業・林業6.0%(全国3.4%)、建設業9.0%(全国7.9%)、公務5.1%(全国3.6%)などがあります。特に、少しずつ割合が減少しているとはいえ、建設業は基幹産業の一つとして北海道の経済を牽引してきました。しかし一方で、公共工事への依存とその減少が、北海道を他地域以上の景気低迷に押しやってきた一因にもなっています。 これらの産業構造的な課題を克服するため、現在は、様々な取り組みが行われています。地域特性を活かして ~「食」と「企業誘致」~
北海道は、厚生労働省により「戦略産業雇用創造プロジェクト」に採択されており、官民一体となって「食」、「ものづくり」に力を入れた雇用創出に取り組んでいます。面白いことに、この2つの産業では、強化といっても意味合いが全く違います。つまり、一口に「強化」と言っても、強みをさらなる強さに変えるべく取り組んでいる「食」産業と、産業別GDPからも分かるように、他都道府県より弱い製造業を補強する「ものづくり」産業、というように、それぞれ力の入れ方に違いが出るのです。食品業~”素材王国”+”北海道ブランド”~
農業への就業者が多いことから、材料としての食糧には恵まれていることもあり、食品製造業では、従業員数7.1万人、製造品出荷額1.8兆円と、ともに全国一位となっています。また、北海道食品の人気を裏付けるものとして、北海道物産展の人気があります。2006年に開催された地域別の物産展のうち、北海道物産展の割合は24.7%と、一地域で全体のおよそ4分の1を占めており、平成21年度の主な物産展開催地の年間開催回数を見ると、他県に比べ、北海道の人気の高さがうかがえます。北海道は、以前より「素材王国」として、素材の良さを賞賛される一方、付加価値の高い加工品製造は苦手であると揶揄されてきましたが、近年では、製菓業界を中心に、「北海道ブランド」の確立にも、多くの成功事例を生み出しています。(資料:経済産業省北海道経済産業局、北海道の物産展に関する実態調査報告書 平成21年度)
製造業~リスク分散の適地として~
これまで、波及効果の大きい製造業を中心に企業誘致にいそしんできており、1.広大な土地、2.安価な賃金、3.地震・台風等災害の影響の少なさ、4.輸送システムの確立等をあげ、大手自動車メーカー等の誘致にも成功しています。北海道外の方からすると雪の影響を懸念されるかもしれませんが、北海道の降雪はごくごく日常的。 本州の台風より影響は小さく、上記自動車メーカーでも、工場の稼働停止日は本州のそれを下回ります。 さらに、東日本大震災後はBCP(事業継続計画)の観点から、リスク分散のため本社機能のバックアップとして、札幌に単なる支社としてではなく、本社や本部と名付けた事業所の移転・開設を行う企業も増えています。輸送費の点からは苦しめられた首都圏からの距離が、誘致にはプラスに働く結果となったのです。体験したい、北の大地 ~観光としての魅力~
北海道は、旅行で行きたいところとして、アンケートなどでは沖縄と並んで常に上位にランキングされます。観光は、飲食や小売り等複数の産業に渡った業種で構成されることから、産業として独立している分野ではありませんが、2008年の経済効果を考える報告では観光GDPは5,356億円と見積もられており、食品製造業や農業より規模が大きいとされます。 1.雄大な自然、2.冬期の雪や流氷体験、3.夏季の避暑目的、4.温泉の充実等といった魅力を背景に、全国的な人気となった旭山動物園、紋別と網走での流氷砕氷船、世界遺産知床と、北海道全域に魅力的な観光地が散在しています。温泉地の数も244ケ所あり、全国シェアで7.8%、都道府県別順位でも堂々の第1位となっています。 また、外国人観光客も大きく増加しています。2012年の外国人観光客数は79.0万人(うちアジア圏が66.2万人)ですが、5年前の2007年には51.4万人、2002年には27.9万人でしたので、10年間で2.8倍にも伸びていることになります。これは、2003年~2013年の10年間で2倍弱の伸びを示している、全国の外国人観光客伸び率に比べても1.5倍近く、北海道の外国人観光における、今後のポテンシャルを感じさせる数字と言えます。(資料:北海道経済部観光局)
京都や東京の「鑑賞型」観光に比べて、北海道は「体験型」観光という言葉が使われますが、特に、東南アジアからの観光客を中心に、「冬」や「雪」の体験は非常に珍しく、大きな魅力となっているようです。また、自国の夏に訪れるオーストラリアなど南半球からのスキー客に向けて、英語での対応を含めた質の高いサービスを提供することで安定した観光客を獲得しているニセコ町など、各地域が特色を生かした取り組みを行っています。道央圏の魅力 ~札幌の二度泣き~
広大な面積と、全国を上回るペースでの人口減少から、残念ながら北海道における過疎地の問題は深刻で、179自治体のうち80%近い143市町村が過疎地域として公示されています。しかしその一方で、札幌都市圏の人口は増加を続けており、札幌市の人口は192万人と二百万都市に迫る勢いです。また、通勤圏としての札幌都市圏(ここでは簡便的に、江別市、北広島市、石狩市とする)として考えると216万人で、北海道の人口544万人のうち、約4割の人口が集中していることになります。 札幌は、首都圏、近畿、中京、福岡に次ぐ、五大都市圏の一つになっていて、行政機関をはじめとし、大学、テレビ局、証券取引所等の他、大企業の本店・支店が集積しています。 また、「さっぽろ雪まつり」や「YOSAKOIソーラン祭り」などの観光イベント、市内に点在する20ヶ所近い産業・工業団地、三路線の地下鉄と充実した地下街など、産業と暮らしが調和した、心地よい街づくりがなされています。 札幌に転勤を命じられた際、遠く離れた北の寒冷地へ赴く寂しさに涙するが、転勤期間が終了した際には、居心地の良さから戻りた くなくて涙を流すという「札幌の二度泣き」 という言葉が、札幌での生活の快適さを象徴 しているのではないでしょうか。- ※総人口、北海道内各都市の人口:住民基本台帳データ
- ※GDP、産業別GDP:(全国)内閣府「H24年度国民経済計算確報」より平成23年度分(実質、支出側:連鎖方式平成17暦年基準)、 (北海道)北海道「H23年度道民経済計算確報」(実質、支出側:連鎖方式平成17暦年基準)産業別GDPのみ平成21年の数字による比較
- ※産業分類別就業者数:労働力調査、平成25年平均
- ※物産展数:内閣府。(元データ:土産品新聞社HP「百貨店の物産展日程」により作成)
- ※食品製造業従業員数、製造品出荷額:経済産業省 工業統計調査 産業編 2011年
- ※訪日外客数:日本政府観光局「訪日外客数の動向」
- ※訪日外国人来道者数:北海道 経済部観光局 「北海道観光入込客数の推移」
- ※観光GDP:北海道「第5回 北海道観光産業経済効果調査報告書」
北海道の雇用情勢について
男女格差は比較的小さく、景気に従って雇用も少しずつ改善見込み
北海道の労働事情
北海道の労働力人口(就業者と完全失業者の合計)は267万人で、平均年収は386万円となっています。平均年収の全国平均額は473万円ですので、都道府県別順位では36位です。しかし、3.3㎡ごとの住宅家賃(民間)も33位であり、地域物価を鑑みれば、ある程度妥当な数字と言えるでしょう。対全国比、働く女性の多い社会
次に、男女別の労働人口及び就業の違いに目を向けると、まず特徴的なのが、そもそもの人口として、男性が少ないことが挙げられます。人口性比(女性100人に対する男性の数)は、全国の94.8に対して本道は89.7と、全国平均値より男性が5ポイントも少なくなっています。これは、北海道外の学校に進学した学生は、そのまま首都圏など大学等のあった土地で就職する割合が高くなる、この傾向は男子学生の方が顕著であることが一因と言われています。このことも影響して、労働力人口の男女比は、男性は152万人、女性は115万人と、女性は男性の75.6%。全国の比率が74.3%であることから、平均より働く女性の割合が、やや高くなっています。 賃金の面から見た男女差では、一ヶ月の賃金が男性28.0万円、女性21.1万円で、女性の平均賃金は男性の75.4%となります。25%近くの差がついていますが、全国平均は70.9%となっており、相対的には男女差が少ない地域と言えるでしょう。緩やかな景気回復、今後への期待
最後に、景気と失業者数ですが、完全失業者数は12万人で、前年に比べ2万人減少しました。年間平均の完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)は4.6%で、前年の5.2%に比べ0.6%低下しています。また、2014年1月の有効求人倍率は0.79倍と、前年の同じ月と比較して0.18ポイント上昇し48か月連続で前年同月を上回っています。 このように、雇用関係の指標は回復傾向にありますが、完全失業率も、全国平均4.0%に比べると、まだ高い値となっており、全国的な景気回復に比べ、少し遅れて推移しているようです。 とは言え、現在も、中小企業や建設業では人手不足による採用難が起こっており、今後、新幹線や札幌都心部の再開発等による建設業の向上、観光業の充実や、食産業のさらなる発展等により、より一層の雇用創出が期待できる市場と言えるでしょう。- ※労働力人口、失業者数、失業率:労働力調査、平成25年平均
- ※人口性比:平成22年 国勢調査
- ※平均年収:厚生労働省「平成24年賃金構造基本統計調査
- ※住宅家賃:総務省統計局「社会生活統計指標 -都道府県の指標- 2013」 20011年データ
- ※有効求人倍率:北海道経済産業局 最近の管内経済概況(平成26年1月の経済指標を中心として)